日本財団 図書館


 

電位、塩分濃度、なども実用化されています。
深海曳航式濁度計:粒子状物質の量、組成、沈降速度などを調べることは、海水中の垂直方向の物質フラックスを知るうえで重要です。これにより毎洋生態系中の海洋表面の光合成と熱水系の化学合成の寄与の割合を知ることができます。この観測は、セディメント・トラップおよびポンピングシステムを用いる方法と、濁度計をヨーヨーのように船上から曳航し熱水プルームの規模を調べる方法があります。
海底放射線測定機:熱水に含まれる半減期の短い放射性核種、例えば熱水プルーム中のラドンー222を測定することにより、海底熱水系全体の熱フラックスを推定する試みがなされています。
海底現場化学分析装置:現場において水素イオン濃度(pH)、総炭酸ガス、酸素、ケイ素、硫化水素、リン酸などを測定する装置です。海外でも現場測定の様々な分析装置やセンサーが試みられています。これまで船上に回収するまでに微生物活動により変化してしまっていた成分の元々の濃度を知るためや、熱水組成の細かな変動を知るうえで重要です。
海底地殻熱流量測定装置:海嶺部での熱流量測定は熱水循環のパターンを推定するのに不可欠ですが、通常行われている測定法ではプローブを突き刺すための堆積物が必要です。そのため海底の年代が若く堆積物のない海嶺部は、熱流量データの空白域となっていることがほとんどです。今同海底に熱伝導率既知の板状のものを堆積物のかわりに置いて(座布団と呼ばれました)、その中の温度分布を測定するという方法が開発されました。
海底重力計・海底圧力計:地殻変動を検知するためには有人潜水調査船内に持ち込むのではなく、海底設置型のものを開元する必要があります。現在のものは大きすぎるので、小型化、電源の開発といったハード面ばかりでなく、温度特性の測定、キャリブレーションのやり方といったソフト面の問題点も検討する必要があります。
3. 潜水事前調査−メルビル航海の結果
「よこすが」と「しんかい6500」の潜航調査に先立ち、約1年前には米国スクリップス海洋研究所所属の調査船「メルビル」を使った子備調査が行われました。この航海では地球物理観測、地球化学観測、地震観測と岩石の採取と分析が行われました。潜水船の行動範国は1回にせいぜい数km、あらかじめ「地図」を作ってどこに潜航するが決める必要があります。マルチナロービーム(指向性をもたせた複数の音波ビームによる測深)による海底地形図は、潜水船で見られる海底微地形よりはずっとあらい解像度ですが、海域が陸から離れているためにまだよい地図のある海域が少なく、マルチナロービームでの地図作りは重要です。また、地磁気や重力の調査も、地下の温度や密度を反映するので構造の推定のためには欠かせません。航走中継続して同船装備のマルチナロービームによる測深、船上重力計による重力測定、曳航式プロトン磁力計による地磁気全磁力測定が行われ、海膨軸上を含む軸に沿った3本の側線により、軸に沿った約13マイルの幅の海底地形図が得られました。
この航海では地球化学観測がもっとも重要なテーマでした。熱水の鉛直分布とその水平的な広がりを調べるために、CTD(温度、塩分濃度、深さを調べる機器)の周りに採水器を取り付けたものを船の上から海中の任意の深さを、ちょうどヨーヨーをするように曳航しました。これをトーヨー(tow-yo:発音はまるで「東洋」と聞こえます)と言います。この調査航海の結果、海底からの熱水(地下から熱い水がまとまって放出され、海水中に雲のようにただよっているもの)の分布地凶が作られ、その下にある熱水の煙突、ブラックスモー力ーや新鮮な溶岩流をさがす手ががりとなりました。この海域には南北520kmの海嶺上に約26個の熱水プルーム(熱水が海水中に放出さ才してできた直径0〜5キロ、厚さ400〜500m、温度異常0.1℃以下の異常水塊)の存在することがわかりました。これらの熱水プルームの存在は海嶺軸に沿って熱水沽動が数多く分布していることを示しています。採水した水の化学分析の結果、熱水プルームには大きく分けて、イオウに富むものと、鉄に富むものとがあることがわかりました。
地震観測としては海嶺の拡大に伴う自然地震・海底火山活動を観測するとともに、人工地震を使って海嶺およびその深部の構造を明らかにすべく、海嶺軸上に7個の海底地震計を展開し、約2週間の間自然地震観測を行いました。また設置直後にエアガン・ショットを半日行いました。
海膨軌上の採水地点とほぼ同一の場所で、ロックコアによる岩石の採取が行われました。高粘性のグリースを塗ったコアを海底に落下させ、割れたガラス状の岩石試料を付着させて採取しました。軸に沿って「年代ゼロ」の新鮮な火山ガラスの試料が得られました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION